それ水着やないんよ──前澤友作と“手放す力”の話
「それ水着やないんよ」というニュースがネットに流れている。黒地に白の水玉のスーツを着て孫とプールに入るおばあさん。よく見ると、それはかつて話題になった「ZOZOSUIT」だった。
笑い話としては最高だが、ふとその残像が、ある人物の記憶と重なった。ZOZOSUITといえば、前澤友作氏。ファッションECの革命児としてZOZOTOWNを創業し、奇抜なアイデアと行動力で時代を駆け抜けた男だ。
だが、彼は2019年に突如として社長を退任し、会社を手放した。その決断は、単なる経営判断ではなく、もっと深い“自己認識”に基づいたものだったのではないかと、私は思う。
中国・唐の太宗が語った「創業は易く、守成は難し」という言葉がある。 ゼロから何かを生み出す力と、それを維持・発展させる力は、まったく異なる性質を持つ。創業者には、情熱と突破力が必要だ。だが、企業が大きくなるにつれ、求められるのは制度設計、調整力、そして持続可能性への配慮だ。
前澤氏は、自らが“創造者”であり、“調整型の経営者”ではないことを理解していたのかもしれない。だからこそ、思い入れのある会社を手放すという、ある意味で最も難しい決断を下したのだろう。
その後、彼は宇宙旅行プロジェクト「#dearMoon」や社会貢献活動へと舵を切った。企業という枠組みを超え、個人としての挑戦を続ける姿は、まさに“第二章”の始まりだ。
あのプールで見かけたZOZOSUITの残像は、前澤友作という創造者の記憶だったのかもしれない。 彼が手放したのは、会社ではなく「自分の役割」だった。そして今、あの笑い話の余韻の中で、ふとこう思う。
もしかすると、私も何かを手放すことが必要な時期かもしれない。