知性に値札を──トランプ政権のビザ政策と“選別の政治”

 最初は「無茶だ」と思った。

アメリカのH-1Bビザ申請に約1,500万円もの手数料を課すという政策は、世界中の技術者や研究者にとって、まるで「来るな」と言っているように見える。だが、よく考えてみると、これは単なる強硬策ではない。むしろ、政治的アピールと制度的選別を巧みに両立させた、計算された一手なのではないか──そう思えてくる。

「停止」ではなく「選別」

この政策の本質は、ビザ制度の廃止ではない。制度は残されている。しかし、申請にかかる手数料が10万ドル(約1,500万円)に跳ね上がることで、資金力のある企業しか申請できない構造が生まれる。門は開いているが、通れるのは限られた者だけ。これは、制度の「象徴性」を巧みに利用した選別の政治である。

絶妙な金額設定

この金額は、一般層には「とんでもない高額」に映る。「外国人労働者を制限する強硬な姿勢」として、トランプ氏の支持層に強く響くだろう。一方で、GoogleやAmazonのような巨大IT企業にとっては「払えなくもない」水準だ。つまり、制度を完全に潰すわけではなく、「乱用を防ぐ」という名目で制限をかける。この設定は、政治的アピールと制度の存続を両立させる、冷静な戦略の表れである。

トランプ氏の過激さとブレーンの冷静さ

トランプ氏個人は、過激な言動で知られる。だが、今回の政策には、感情的な強硬さだけではなく、制度設計における冷静な知性が感じられる。「象徴性」と「実効性」を両立させるこの政策は、周囲のブレーンが相当な計算を重ねていることを示している。

制度を完全に閉じることなく、政治的メッセージを最大限に発信する──これは、単なる思いつきではなく、戦略的な制度操作である。

知性に値札を

この政策は、国家が知性をどう扱うかという問いを突きつける。制度は開かれているが、そこに値札がつく。知性の流動性は、制度によって制限される。アメリカは「世界中の知性が集まる場」であり続けられるのか。それとも、制度によって「選ばれた知性だけが通れる門」へと変わっていくのか。

この問いは、AIやリモート技術によって「場所の意味」が薄れつつある現代において、ますます重要になる。制度は、創造性を支えるのか。それとも、制限するのか。

その答えは、制度の設計者たちの知性にこそ、宿っている。


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