証券口座の罠

少し前、証券口座の乗っ取り被害が多発し、話題となった。勝手にログインされ、意図しない銘柄を売却されたり、望まぬ銘柄を購入されたりするという被害だ。報道によれば、購入されたのは中国市場の小型株だったという。

犯人の手口は巧妙だ。まず、自分である銘柄の小型株を仕込む。その後、乗っ取った複数の証券口座を使ってその株を買い上げ、価格を吊り上げる。そして十分に値上がりしたところで、自分の持ち分を売り抜けて利益を確定する。

この手法は、かつて「仕手株」と呼ばれた手口に似ている。仕手株では、株式を買い占めたり偽情報を流したりして、他人に買わせる構図だった。一方今回のケースでは、他人の証券口座を使って直接的に価格を押し上げる点で、より効率的かつ大胆な手法だ。

乗っ取りの方法は、フィッシング詐欺によるログインIDやパスワードの搾取と考えられている。恐ろしい話ではあるが、少し安心した点もある。犯人がこれほど手間をかけた方法を選んだことは、金融機関のセキュリティが強化されている証左でもあるのではないか。

もし証券口座を乗っ取れたなら、そのまま犯人の銀行口座へ送金すればよい、と思ってしまうが、実際にはそれができないよう対策が取られている。同一名義でしか送金できないなどのルールにより、直接的な資金流出は防がれている。

銀行口座の乗っ取りも考えられるが、より厳しいセキュリティ対策が施されているのだろう。だからこそ、証券口座を介しての間接的な手法に至ったのではないか。

こうして考えてみると、銀行や証券会社のセキュリティは、着実に強化されてきたように思える。とはいえ、IDやパスワードの使い回しを避けたり、定期的な変更を行ったり、メールの不審なリンクを開かないなど、個人の対策も不可欠だ。金融機関側の努力とあわせて、私たち利用者の基本的な注意が、被害を未然に防ぐ力となる。


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